赤手空拳 6





三蔵は 極度に疲労しているの回復を 最優先する事にし、

出発は の回復次第にすると 3人に言った。

それには 誰も否やを唱えはしなかった。

の今の状態は 三蔵・悟空・悟浄を助けるために陥ったものであり、

命すら落とすかもしれない作業だったと 八戒から聞かされれば、

が生きていてくれていることだけでも 感謝したい心情だった。

八戒は 三蔵たちが 例の世界に閉じ込められていた時のの様子を

3人に語って聞かせることで がこうなった事を 納得させたのだった。

実は 八戒が考えていたよりも にとって 三蔵と話すことは大変だったのだ。

だからこそ 倒れてしまう前に 三蔵たちを

救い出してしまわなければならなかった。




毎晩 の身体を抱きしめながら眠る三蔵は、戻ってくる時に交わした

2人の会話を幾度となく 繰り返して思い出していた。

は「三蔵愛しています。帰りましょう。」と言って、2人は口付けを交わした。

一緒に帰り着くことが出来ないかもしれない そんな中での最後の言葉が

三蔵への愛の告白と 共にあろうとするの意思。

眠り続ける その柔らかな身体を抱いて 「早く 俺のところへ 帰って来い。」と

ただ抱きしめてやる。




そのまま暫くたっただろうか、三蔵は 何かの気配で目が覚めた。

布団から半身を起こすと 枕許の銃に手を掛ける。

気配のある暗闇に狙いを定め構えると そこから現れた 神は笑いながら言った。

「俺様には その銃はきかねぇよ。無駄な事は止めろ 金蝉。」

「クソババアか 何しにきた。」

「ご挨拶だねぇ、の様子を見に来たんだよ。

あ〜ぁ またえらく力を使ったもんだ。こんなに無理をして・・・

最後の1人が金蝉でなかったら確実に死んでたよ。

このまま待っていたんじゃ 何時目覚めるか・・・・。

少し 力を補充しておいてやるか・・・。」そう言って 

に口付けを施した 観音は、

「これで 2〜3日の内には 目覚めるだろう。よろしく言ってくれ。あばよ。」

三蔵に反論の隙を与えず また暗闇の中へと消えていった。

盛大なため息を吐いて 三蔵は 神の去った方を見た。




あいつが現れたと言うことは そうしなければ 

は何時目覚めるか解らないほどに、力を使っていたと言うことだ。

あのクソババアは ちょっとそっとじゃ 現れるような事はしない。

以前に一度 俺を助けに現れたときも そうしなければ 

死んでしまうからだったと、八戒が言っていた。

では は 死か生の狭間で漂っているのだろうか。

 何処にも行くな。

お前は 俺の女なのだろう、勝手に何処かへ行く事は 許さないぞ。」

三蔵は そう言うと の身体を抱きしめた。





それから 3日後の夕方。

はようやく覚醒した。

三蔵だけが 新聞を読んで座る部屋に 夕日が差し込んで、

綺麗に柑子色に染めている。

瞼を上げて その愛しい男のいる部屋を見た の顔に 微笑がのぼった。

三蔵は 新聞をめくりながら ふとベッドのに視線を向ける。

「ん? 起きたのか?」

らしくない事に 新聞を放り出し の元に駆け寄る。

「馬鹿野郎、こんなになるまで 無理しやがって!」

三蔵は 口では怒鳴りながら 手の平で優しくの頬を撫でた。

その手をさらに押し付けるように上から の手が覆う。

「三蔵 ただいま。

三蔵がここにいると言うことは 全員無事に帰れたんですね。」

「あぁ 悟空も悟浄も 戻っている。が一番最後だぞ。

迎えに来たが これほどに遅いと言うのは 

俺を心配させるにも程度というものがあるだろう。」

「私ったら 三蔵やみんなに 心配ばかりかけているんですね。」

「なんだ 今頃気が付いたのか?」

「はい そのようです。」は 三蔵の言葉に軽やかに微笑んだ。




「三蔵 私のことで 八戒を攻めなかったでしょうね。

私が 本当の事を言えば 八戒はきっと止めたでしょう。

でも 私は 三蔵たちをどうしても 取り戻したかったんです。

だから 無理を承知で 迎えに行ったんですから・・・・、

今回 八戒は一番辛かったと思います。

何もしないで 見ているだけだったんですから、

私なら 耐えられないかもしれません。

八戒は 本当に強い人ですね。」

八戒を 弁護するの言葉に 不機嫌さをあらわにしながらも の事を

辛そうに説明した 八戒の顔が浮かんだ。

「フン 目覚めたすぐから 他の男の事を 気にするんじゃねぇよ。」

「ごめんなさい。

さあ 何か食べに行きましょう。私は お腹がすきました。

みんなも誘って たくさん食べないと・・・・。

今夜は 悟空より食べるかもしれませんよ。」

三蔵が 不機嫌なのも 気にする様子もなく は微笑んでいる

三蔵もそれ以上何か言うことはなかった。

それを 横目で見ながら 身体を起こして 身支度をする





ベッドから降りて ドアに向かい歩き出そうとしたを 

後ろから抱きしめた三蔵は、その 黒髪に額をつけて 「 俺も愛している。」と

あの時の最後の言葉に やっと言葉を返すことが出来た。






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お読みいただきまして ありがとうございます。
助けてもらうばかりのヒロインでは ツマランというので 今回は
三蔵たちが助けられました。